2008年2月24日
偉人は死後も影響力を維持する。
毛沢東は、今も影響力を維持し、人民に愛されている。私も毛沢東が好きであり、彼は西郷隆盛に似ていると書いたことがある。
トウ小平は、今も影響力を維持しているが、毛沢東ほど人民に愛されていない。新国家建設に多大な貢献をしたのにあまり人々に愛されていないという点でトウ小平は大久保利通に似ている。
今日の開発経済学では、毛沢東よりトウ小平が評価されるであろう。
毛沢東の経済政策は、”自力更生”である。これは中国の輸入代替工業化政策で、民族資本を用い、国営企業を中心にした自立的経済が建設された。しかし、同時に非効率で、国際競争力に乏しい企業群を生み出した。
トウ小平の経済政策は、”改革開放”である。これは中国の輸出志向工業化政策で、積極的に外資を導入し、国際競争力を有する労働集約的産業の発展を促進し、工業化を軌道に乗せた。しかし、局地的な経済特区や沿海部において積極的に推進されたため国内の地域間格差を拡大した。
もちろん開発経済学の価値観も一様ではない。トウ小平の評価は、今日主流である新古典派経済学の理論に照らしたものであり、新マルクス主義経済学の理論に照らせば、異なった評価になる。
また、経済史の経済発展段階説では、毛沢東とトウ小平は、それぞれ異なった発展段階において重要な役割を担ったことになる。毛沢東は民族資本で原始的な資本形成機構を建設し、トウ小平は選択的な外資導入で民族資本の国際競争力を高めたと言える。歴史的に異なった役割が求められた両者を同列に比較するのは適切でないのかもしれない。
半世紀前は、非常に重要であった”民族資本”という概念が、もはや死語となりつつある。今日では、国際金融市場における民間資本の流動が非常に活発で、各国政府に市場原理の導入を迫る圧力となっている。社会主義市場経済の中国が国際金融市場とどのように折り合いをつけていくのか? 毛沢東とトウ小平の経済政策にその答えはない。
21世紀が中国の世紀となるためには、毛沢東より人民に愛され、トウ小平より識者から評価される経済政策を実行できるリーダーの出現が待望される。
ファイル種別 | ファイル名 | サイズ | 初掲載日 | 最終更新日 |
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全文PDFファイル | t08c010.pdf | 12KB | 2008-02-24 | 2008-02-24 |