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産経新聞国際面のアジア

 私は産経新聞の新聞配達をしているので、産経新聞を毎日読んでいる。国際面をみるとアジアの記事、特に中国、台湾の記事が目に付く。産経新聞の中国に関する記事は、(北京=時事)、(北京=共同)、(香港=相馬勝)といった記事が多い。一方、台湾は、(台北=小沢昇)といった記事になる。これは、産経新聞が台北や香港には、記者を派遣しているが北京には派遣していないかららしい。日本の他の新聞は逆で台北には記者を派遣していないらしい。これは、中台問題の反映であろう。産経新聞は、中台問題を考える一つのきっかけを与えはするが、アジア、特に中国を考える資料としては、適さないかもしれない。しかし、産経新聞は無料で手に入る資料で、以前に張紀潯先生が寄稿したこともあるのでこれを資料にアジアについて考えてみようと思う。

 産経新聞ならではの記事は台湾のことについてであろう。それについては、台湾の実務外交と台湾の民主化台湾総統選がある。

 まず、実務外交については、李登輝総統の訪米を第一にあげることができる。このレポートでは、主に1996年になってからの産経新聞国際面を資料とするつもりであるが、それについては、ふれざるをえない。私のわかる範囲では、昨年6月7日に李登輝総統の訪米が実現する。李登輝総統の表向きの目的は母校コーネル大学の同窓会に出席することである。実際には、台湾の存在を世界にアピールし、中国と台湾の2つの政治実態を世界に知ってもらうためだと考えられる。米国、特にクリントン政権は李登輝総統の訪米を「厳格に個人の資格での私的訪問」と強調している。実際には、アメリカが何を目的としたのかは、私には特定できないが、それが実現した1つの背景として、親台湾が圧倒的多数を占める共和党が米議会で多数派になったことがあるらしい。はっきりしていることは、台湾と断行している米国の対台湾政策が変化したということである。中国は、これに対して「1つの中国」の原則に反するものだとして米国を非難し、米中関係は悪化した。しかし、96年現在では、改善しているように思われる。台湾へは、威嚇と考えられる軍事行動などをし、そのため台湾の株が暴落したり、台湾の対中投資が激減などといったことはあったが、米国へは、私の記憶では、在米大使を召還したといった記事をみたと思うが、それ以上は何もなかったと思う。

 中国政府としては、経済に専念したいのだろうと思う。中国があらゆる意味で米国と競争していくためには、経済の成長と発展が不可欠である。それがなければ、12億以上の国民がある程度の生活をしていくことができないし、国民の生命、財産を守るため、また国の発言力の1つの裏付けとなる軍事力をその国の大きさ程度に大きくするための軍隊の近代化をすることができない。だから、中国は、今は米中関係の悪化の継続は望まないとし、この件については、どちらかというと中国政府が折れる形で改善したと想像する。

 しかし、中国の軍部は、性質上積極的であった。少し話が変わるが、軍部については、最近の記事で「中国軍事委の2副主席引退へ」というのがあった。これは、大枠はポストトウ小平江沢民主席の軍部掌握に関する記事である。これと考えあわせると中国は政府と軍部で少しずれがあり、江沢民主席は完全には、軍部を掌握していないのかとも思える。中国政府は、米国との友好関係を希望するが、もちろん「1つの中国」の原則に変わりはない。米国は現在、保守的で国内向きである。米国は対台湾政策を変更したと考えられるが、かつてほどには肩入れしないだろう。こういった判断から軍部の意向を受け、台湾への軍事的威嚇行動を許容したのであろう。この行動は、米国に対する一種の牽制にもなるし、中国が「1つの中国」の原則を変更していないことを国内外、特に国内向けに示すことになり、何よりも台湾で独立を叫んでいる人たちに独立すれば、中国がどういう対応をするかをはっきりと示すことにもなる。両国ニュースからは、このような国家間の思惑が想像された。

 次に台湾総統選挙がある。これは、今年の3月23日に台湾で行われる初の正副総統選挙についてである。今までふれてきた中台問題とも関連するし、米国を含めた三者に関連があるといえる。台湾はNIESの1つであり、経済はすでに成功したといえる。そして台湾は、李登輝総統のもとに徐々に民主化を達成していった。これから迎える正副総統直接選挙は、民主化の総仕上げとも呼べるものである。これによって台湾は政治、経済ともに今、国際社会の認める先進国の条件を満たしたことになり、今までのように国際社会が台湾を無視することができなくなるのではないかと考えられる。

 このように台湾が国際社会が認める形で政治、経済ともに発展してきたことは重要であると思う。(台湾の発展過程の異論については、「アジアNIESの経済成長分析」「悲観的アジア経済論--政治経済学的アプローチ」を参照されたい。)これは、中国と比べるとはっきりとする。中国も経済面では成長、発展している。質的発展では台湾が先をいっているといえるが中国には将来性があるといえる。中国も今、国際社会が定義する先進国に経済面ではなろうとしている。中国は社会主義市場経済という独自の経済体制であるが、これは、現在先進国は、資本主義経済体制であると言うよりは、混合経済体制であるとすれば、中国独自の経済体制も国際社会の認める先進国の経済体制の範疇に入る。

 しかし、問題は政治であり、中国共産党一党独裁体制である。これは、国際社会の認める政治体制ではないと思う。(共産党一党独裁体制の弊害については、森田昌幸社会主義国家崩壊の原因」を参照されたい。)台湾もかつては、国民党一党独裁であった。現在も与党は国民党ではあるが、李登輝総統は、カク柏村元行政院長などを国民党から排除し、かつての国民党とはまったく別の国民党にしてしまった。そして、総統選挙で総仕上げなのである。

 これは、私の想像だが、台湾の政治的民主化は、中国に絶対につめることのできない差をつけたと思う。経済面で将来中国が台湾を圧倒する可能性は十分に考えられる。しかし、中国で台湾のように複数の政党があり、その国のトップを国民の直接選挙で決めることができるだろうか。私はできないと思う。なぜなら、私は中国には強力な中央集権制が必要であり、極言すれば、物理的に皇帝のような人を必要とする国だと思う。でなければ、世界一の人口の国をまとめることはできないと思う。

 中国の歴史は皇帝とそれを支える人々が民衆から搾取する上からの統治によって成り立っていたともいえるが、他方で、安定と平和を求める民衆が、多数の人民、民族が意見を出し合って合意を得るよりは、一人の絶対者にしたがうことの方が、中国ではよりよいと考え、その考えをもとに下から支配者を支えたということを示しているようにも思える。これは、私の想像ではあるが、これをもとに考えれば、中国の発展には、中国独自の発展があり、今の国際社会が一般的とする発展の方向と中国のそれとは一致しないといえる。(”中国独自の発展の可能性”という問題意識は、卒業論文「中国経済の特殊性」の出発点になっている。)

 一方、台湾の発展は、国際社会が一般に望む発展の方向と合致した。つまり、中国は国際社会が望む発展の方向に変化させない限り、台湾より後れた国ということになってしまうだろう。

 本来これは、産経新聞の国際面からアジアを考えるつもりであったが、中台関係だけでかなりの紙数をつかってしまった。産経新聞の国際面でアジアに関するものは、すでにふれた中台米問題の他にもたくさんある。政治ではポストトウ小平江沢民体制等があり、経済では香港返還やASEANとの経済協力等、安全保障では包括的核実験禁止条約(CTBT)締結前に中国が核実験をするらしいというものがある。中国以外では、ASEAN加盟国における相互経済関係の強化や韓国財閥企業の日本進出等がある。

 今回は、産経新聞国際面を資料にしてアジアについていろいろ考えてみた。まだまだ不十分である。張紀潯先生ゼミナールTで更に深くアジアについて勉強したいと思う。

 1996年1月16日 内田真人
 改訂(Ver. 1.02)


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ファイル種別 ファイル名 サイズ 初掲載日 最終更新日
全文HTMLファイル sofomoa2.html 9KB 1996-01-16 1996-01-16