森田ゼミ96年黒旗福助トップ

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 福助15号 
発行所 :Y.H.アカデミー
パトロン:森田ゼミナール様

変人日記−今治編−  山路博之

八月十七日(土)【VIP市民プール】
 その日は朝から曇り空で、肌寒かった。
 案の定、大人用プールには誰も泳いでいなかった。
 せっかく金を払ったのだから、泳がずには帰れるものかと私は意気込んだ。
 それでもちょっぴり不安であった。
 しかし意を決して海パンにはきかえ、泳ぐことにした。
 それが午前十時であった。

 午後一時過ぎ、不安は悲劇に変わっていた。
 大人用プールはまさに異様な雰囲気に包まれていた。
 監視員十人に対し、客一人という光景であった。
 その客とはもちろん私のことである。

 普段からあまりモノゴトに動じないタイプであるが、さすがにこの時ばかりはあせった。
 別に悪いことをしているわけでもないのだが、どうもばつの悪い状況であった。
 こう感じると最悪である。
 何か用事のできた振りをして帰ろうか、それとも長イスにでも寝そべって体を焼こうかなどと、いつしか水中ではそんなことばかりを考えていた。
 「人が泳いでいるのをジロジロ見るんじゃね〜よ」と思って、近くの監視員を睨みつけても、「彼らもそれが仕事だからしゃあないな」と、なかばあきらめぎみになる。
 そこで、なかばあきらめぎみの〈ヤケクソクロール〉をみんなに披露する。
 〈ヤケクソクロールの披露〉ですっかり疲労した私は、そのことを理由に市民プールをあとにすることにした。
 帰りしな出口で、受付のオネエチャンに、
「今日はVIPプールでしたねぇ」と笑顔でいわれ、
「ああ、どうも」と、照れながらその場をあとにした。

 帰り道、プール場ではちょっぴりスネていた自分ではあったが、
彼女の無邪気な笑顔とその言葉を思い出すたびに、
いつしかルンルン気分になっている自分がそこにはいた。