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第2節 郷鎮企業の統計分析

 郷鎮企業は中国経済を支える重要な柱の1つになっている。本節では統計を用い、できるだけ正確に把握することを目標とする。

表3-2 郷鎮企業企業数の推移 (単位:万件)
  郷鎮企業 村営企業 聨戸企業 個人企業 合計
1984年 40.2 146.1 90.6 329.6 606.5
1989年 40.6 113.0 107.0 1,608.0 1,868.6
1995年 42.0 120.0 96.0 1,945.0 2,203.0
資料:『中国郷鎮企業年鑑』各年版から作成。
出所:舒小明(1997)『中国の農業セクターにおける郷鎮企業の一考察』,12頁。

 表3-2をみると1984年から約10年間で郷鎮企業村営企業連戸企業の数は横ばいか、減少であったが、個人企業の数だけは大幅な伸びを示していることがわかる。それは1983年に個人企業を制度的に認めた結果である。個人企業は1995年のデータにおいて実に全郷鎮企業数の約80%を占め、企業数では郷鎮企業の中心的存在となっている。

表3-3 郷鎮企業従業員数の推移 (単位:万人)
  郷鎮企業 村営企業 聨戸企業 個人企業 合計
1984年 1,879 2,103 522 702 5,206
1989年 2,384 2,337 884 3,763 9,368
1995年 3,029 3,031 874 5,927 12,861
資料:『中国郷鎮企業年鑑』各年版から作成。
出所:舒小明(1997)『中国の農業セクターにおける郷鎮企業の一考察』,12頁。

 表3-3は従業員数の推移である。従業員数においても個人企業の増加傾向が著しい。

表3-4 郷鎮企業の生産額の推移 (単位:億元)
  郷鎮企業 村営企業 聨戸企業 個人企業 合計
1984年 818 649 127 118 1,712
1989年 2,673 2,183 614 1,959 7,429
1995年 15,988 16,154 4,244 20,913 57,299
資料:『中国郷鎮企業年鑑』各年版から作成。
出所:舒小明(1997)『中国の農業セクターにおける郷鎮企業の一考察』,13頁。

 表3-3企業数、表3-3従業員数、表3-4生産額のすべてを総合してみると新たなことがわかる。それは中国の郷鎮企業が、相対的に少数で規模の大きい郷・村営企業と多数で小さな個人企業から構成されていることである。

 中国経済を研究するためにはまず中国の現状をできるだけ正確に把握しなければならない。そのために統計を使うことは非常に重要である。

 例えば中国の国有企業問題についての議論を考えてみる。国有企業問題の中でも重要な問題として失業問題がある。そこで郷鎮企業に国有企業従業員の吸収を期待するという議論がある。なるほど郷鎮企業は中国経済を支える大きな柱の1つであるからできるかもしれない。しかし、先程のように統計資料を使って正確に郷鎮企業を把握していれば、簡単にその意見にうなずくことはできない。従業員数に注目すれば零細的な個人企業が非常に多いのである。例えば、郷鎮企業が国有企業の失業者を引き受けたとする。すると個人企業が多くの人を引き受けることになる。個人企業は先程の総合的な統計分析から労働生産性が低いであろうことが推定できる。W.W.ロストウ離陸二重経済発展モデルでは、どちらも労働生産性の上昇を強調していた。持続的な経済成長のためには労働生産性の上昇が必要なのである。つまり、郷鎮企業が国有企業の改革に伴う失業者を吸収するという意見は姑息な手段になりかねない

 しかし、統計分析にも欠点があるように思う。それは誰が統計を取ったのかということである。適切な例えでないかもしれないが、日本の経済企画庁の景気に対する発表はその一例である。政府の発表は立場や経済に対する影響力から必ずしも正確に現状を反映したものではない。中国の統計は多くが政府発表であり、また巨大さ故に正確な統計を取ることは困難である。


はじめに
第1章 中国経済の特徴
 第1節 比較体制論と経済開発論
 第2節 中国の経済史概略
 第3節 巨大な国土と人口
第2章 開発経済学のアプローチ
 第1節 工業化政策
 第2節 W.W.ロストウの離陸
 第3節 二重経済発展モデル
第3章 農村における近代的工業部門
 第1節 郷鎮企業の発展過程
 第2節 郷鎮企業の統計分析
おわりに
参考文献

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