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経済哲学のすすめ!

経済学再考

 「問題」は、必ず「その解決」を連れてくる。これまでも経済学の危機はいくた びも現われたが、経済学は、いつもそれを機にしてより豊穣な学問へと成長してい った。学問的営為における通常の進歩とは、すでに合意されている思想的基盤から 出発してそれをいっそう洗練する前進的な歩みであるが、学問の革命的な飛躍が起 こる場合は、それが拠って立つ基盤へ降りたって哲学的な批判をおこなうという背 進的な省察から生じる。そしてまた、そのような必要性はいつも現実の側から要請 されたのである。

 1970年に始まる20年間の経済社会の推移も、まさしく経済学を根本的に再 考することを私達に強要しており、「経済学は、はたして科学であろうか」という 問いに答えることが、最も緊急な課題となっている。それに答えるには、経済学と 私達の生活との関わりあい方をいま一度検計することが必要となるであろう。

 「社会科学なるものありや」(R‐ハロッド)は、きっぱりと、経済学は科学と 見られるべきではないと言い切る。さらに、科学と見られたいと思うべきでもない と主張する。彼は、経済学をも含む全般的な意味での社会学とは、本来、私達の感 情的・常識的・道徳的あるいは神秘的な問いかけを必要とする「研究」なのである と説き、現代の思考軽視の風潮を嘆く。その論調からは、英国経験主義の健全な伝 統の響きがはっきりと伝わってくる。

 「経済哲学のすすめ」(浦上博逵)は、経済学研究において経済哲学という研究 分野が存在することを示す。これまで、経済学は「科学」であろうとして価値観あ るいは世界観に相当する部分を意識的に切り捨ててきた。そのことは、経済学が形 而上学的論争にみちていた時代を通過するためには必要なことであったが、しかし それは、本来、切り捨てられるべきものでなく、それ自体に積極的な分析が施され るものであったのである。筆者は、そのことを訴えるとともに経済哲学研究の方向 を提示する。

浦上博逵「経済学再考」『現代のエスプリ 経済学:危機から明日へ