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■『月刊 日本語 2005年5月号』P.50〜51より

「行ってみようよ 海外派遣Volume26」「北京の日本語学校で約1ヶ月日本語教師インターン」


 日本語を教えたい。その気持ちを携えて、海外に飛び立つ人がいます。なぜ海外を目指したのか、そこでどんな体験をしたのか、それが今、どのような形で生かされているのか。この連載では、実際に海外で夢を実現された方にお話を伺います。これから海外に飛び出したいと考えている皆さんに勇気とヒントを贈ります。

 文:藤永洋子

念願の中国再訪で日本語教師を初体験

 長谷川貴枝さんが中国に興味を持ったのは中学生の時だった。テレビの音楽番組でビビアン・スーが歌う中国語の歌の発音がかわいらしくて、聞き取った歌詞をカタカナで書いて覚えたという。高校では選択授業で中国語を学び、夏休みの一ヶ月間、北京へ語学留学をした。大学での専攻も中国語。中国に行きたいという思いはずっと持っていた。

 インターンシッププログラムに参加しようと思ったのは、大学3年生からスタートする日本語教員資格取得のための授業を受ける前に、日本語教師の資格がどのようなものなのか知りたかったからだ。中国語のブラッシュアップも兼ねて、2年生の春休みの1ヶ月間、高校時代の留学先だった北京へ行けるコースに参加した。

 派遣先の日本語学校は、午前9時から午後3時まで週5日間、高校を卒業した人や社会人経験者などが、日本への留学や日本語を生かした仕事に就くことを目的に学んでいる学校だった。

 インターンとしての1日目は、雰囲気をつかむための授業見学。午前中は日本語の新しい文型の導入、午後から会話練習が行われていた。

 「日本語教育に関する知識が全くなかったので、中国語を全然使わずに日本語だけで教えていることに驚きました」。

 長谷川さんが日本語教師として初めて教えることになったのは、初級クラスと入門クラス。午前中は学生に混じって授業を聞き、午後の会話練習を担当した。授業の後、先生方からアドバイスがあった。最初の1週間は反省の連続だった。

 「すべてが初めて気付くことばかりでした。日本語で授業をしているといっても、授業の中で使える日本語は既習の語彙や文法でなくてはならないんですね。また、黒板に書くときに、教師は学生に背中を向けてはいけない。常に学生の方を向いて授業を進めるのはけっこう大変なことだと思いました」。

励みになった学生からのコメント

 学生のほとんどは年上だったが、教えることにはだんだん慣れた。中級クラスを担当した時は、授業準備に日本から持参した電子辞書を駆使し、『広辞苑』や文型の辞書を借りて、できるだけ具体的な例文を作ろうと時間をかけて考えた。

 副校長のアドバイスで、授業で教えたことをコンピュータールームでまとめ、その記録はフロッピーに残してある。

 長谷川さんの住まいは、日本語学校の中にあり、学校がある建物の一角が日本語教師の住居になっていた。自分の部屋で過ごす時間以外は、共有の休憩室で常勤の日本人の先生とおしゃべりをしたり、わからないことを教えてもらったりすることができた。

 「先生方とコミュニケーションをとる時間が十分にあったので、いろいろと勉強になりました。寮は、歩いて買い物に行ける場所だったので、授業が終わると中国語の練習を兼ねて買い物に行きました。休日は学生に誘われて一緒に出かけることもありました」。

 忙しくも充実した1ヶ月を過ごし、最後の授業では学生にアンケートをお願いした。未経験の自分を受け入れてくれた学生たちに、教師としての役割をはたせたのかどうか本音を聞きたかったからだ。100点満点で評価してもらったところ、高得点をもらい、中には200点をつけてくれた学生もいた。「日本語がますます好きになった」「自信と勇気を持ってください」といったコメントの1つひとつが、その後の大きな励みになった。

 「中身の濃い1ヶ月でした。先生の立場が理解できたので、帰国後、大学の授業を受ける心構えが変わりました。その結果、日本語関連の授業は成績もよかったです(笑)」。

 帰国後1年が過ぎ、日本に留学を果たした学生とメール交換をしているという長谷川さん。日本語学校の学生はビジネスを目的にする人も多かったため、卒業後は、社会経験を積んでから教壇に立ちたいと考えている。

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