森田ゼミ96年黒旗福助トップ

hukusuke
 福助16号 
発行所 :Y.H.アカデミー
パトロン:森田ゼミナール様

能力開発学

五感をマルチに使う立花隆氏の読書術、記憶術
 人間は、視覚、聴覚、触覚、嗅覚など多くの感覚を持っている。情報は、これらの感覚器官によって脳にインプットされる。当然、たんに目だけ、耳だけでなく、できるだけ多くの感覚を使って覚えるのが効果的である。

 例えば黙読は視覚だけに頼る記憶方法である。それよりも、音読して耳に聞かせる、重要なところは手で書写するというように、複数の感覚を重層的に働かせて情報をインプットするほうが、記憶をより確かなものにできる。

 『田中角栄研究―全記録』や『サル学の現在』などさまざまなジャンルの、膨大なデータで裏づけられた著作をつぎつぎと完成させていく立花隆氏は、一つの仕事をするのに、大型の本棚五本分以上の大量の書物を読破する。このとき、メモもノートもとらない。ストレートに頭に叩きこむという。

 想像を絶する記憶力だと驚くだろうが、実はノウハウがある。

 立花氏は、本を「汚すこと」で記憶を強化するというのだ。線を引いたり、付箋を張ったりすることで、強く頭に刻みこむ。これこそまさに、多くの感覚器官を同時並行的に駆使した記憶法である。

 線を引くとき、ペンを持つ指先に圧力がかかる。この瞬間、触覚が刺激されている。ペン先がこすれる音には、触覚が反応する。本に書かれた文字と自分の描いた線を見つめるとき、視覚が働いている。視覚は、また、付箋の色や張られた角度にも反応するだろう。付箋を張る指先には、ペンを持つ時とは違った触感があり、それを触覚が感じとっている。

 無意識のうちに、感覚器官がマルチに働いているわけである。

 多くの感覚器官を動員した記憶法が効果的であることは、心理学の分野でも、古くから明らかになっている。それを踏まえた記憶術のノウハウも多い。

 イメージによる記憶法も、これに似ている。

 覚えたいものをイメージに置き換えることで、脳の視覚領域を刺激する。想像力を駆使して、その匂いや手触りまで描くことができれば、記憶はより鮮明に、長く残るようになる。

 語呂あわせも同様である。口にすることで、耳が聞く。ことばがイメージをつくる。脳の聴覚や視覚部分が同時に働いて、記憶力を高めているわけである。