森田ゼミ96年黒旗福助トップ

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 福助18号 
発行所 :Y.H.アカデミー
パトロン:森田ゼミナール様

変人日記−今治編−  山路博之

八月二十四日(土)【ゴンという名の犬】
 その日の夕方は、きれいな夕焼け空であった。
 その夕焼け空の下、私は一匹の犬と散歩をしている。
 去年の春、近所の人から生まれたばかりの子犬を両親が譲り受けた。
 名前は〈ゴン〉で、白と茶色のぶち模様がトレードマークの雄犬である。

 去年の夏に一度会い、今年で二度目の「対面」となる。
 自然や動物との触れ合いの少ない日常生活のせいか、今回もコイツとはなかなか馴染めなかった。
 そうしたこちらの態度を察してか、向こうも慣れない「新入り」を警戒しながら部屋の中をウロウロしていた。

 どういうわけか我が家では、犬が、我が物顔で部屋の中を平然と歩き回っている。
 たしかに、生まれたばかりの頃ならば、まだ小さくて部屋に入れてやるのもわかる。
 しかし、すでに大きくなった今でも部屋の中に入れてやり、ウロウロされるのはたまらない。

 さらに、どうやらこの犬は私とよく似ているらしい。
 例えば、〈家弁慶〉の性格やアイスクリームが好物であること等…。
 アイスクリームに関するおもしろいエピソードが、ゴンと私にはある。

 ある夏の晩、ゴンが好物のアイスクリームを食べ過ぎ腹をこわしてしまい、夜中に動物病院に運ばれるという事件が起こった。
 その話を聞いた時には、「間抜けな犬だ」と大笑いしたが、その後で嫌な思い出が私の脳裏を過ぎる。
 それは、あるクリスマス・イヴの晩、私に起こった悲しい出来事であった。
 当時、まだ小学生であった私は、つい調子にのってシャンペンや好物のアイスをたらふく食べてしまった。
 案の定、翌日私はゲリピーになり、代わりに母が通信簿を受取に学校に出向く羽目になった。
 「やっぱりオレ達って、似たもの同士なのかなぁ」と、つくづく感じてしまった。
 「お互いこれからは両親にあまり迷惑をかけないようにしような」と、私が嘯いた。
 するとその言葉がわかったのか、「弟」は一瞬こちらの方に顔を向けたが、またスタスタと私の前を歩いて行くのであった。