森田ゼミ96年黒旗福助トップ

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 福助21号 
発行所 :Y.H.アカデミー
パトロン:森田ゼミナール様

変人日記−今治編−  山路博之

八月二十五日(日)【やきとり】
 その日の夕方は、昨日と同じきれいな夕焼け空であった。
 私と妹と両親の4人で、近くのやきとり屋さんに食べにいくことになった。
 下戸である私にとっては、それまでやきとり屋という居酒屋の世界をかいまみる機会はほとんどなかった。

 十分程で、私たちを乗せた車はおめやてのやきとり屋に到着した。
 店に入ると、愛想のいい女将が出迎えてくれて、私たちを座敷の方に案内してくれた。
 この後、我々家族にちょっとした「事件」が起ころうとは、まだ誰も知る由も無かった。

 出される料理に舌鼓を打ちながら、家族がいろいろ感想を述べ始めた。
 「料理はうまいし、女将はうつみ宮土理似できれいだし」と、妹が呟く。
 私もつい調子にのって、「ケロンパ、お銚子二本ね!」と嘯いてしまった。
 と、その瞬間、なんと女将が障子を開けて次の料理を運んできたではないか。
 そして、承知しましたという感じで、カウンターに向かって「お銚子二本追加ねぇ〜」という声が店内に響き渡った。

 それを聞いた我々家族は大爆笑である。
 しかし、大爆笑は悲劇の始まりでもあった。

 五分後、出された〈お銚子〉二本を前にして、〈お調子者〉は岐路に立たされていた。
 妹は(ざまあみろ!)といった感じで、私の行動に注目していた。
 たまりかねた父が、「無理して飲むことはないよ」と助け船を出してくれた。
 すると妹が、「自分で頼んだんだから、ちゃんと飲めよな!」と、誇らしげな顔で言い放った。

 こうなれば私も意地である。
 二本のお銚子を飲み干すと、案の定、泥酔状態となり、その後のことはほとんど覚えていない状態になった…。
 翌日の妹いわく、帰りしな女将の、「またのお越しをお待ちしております」という儀礼的な挨拶に対して、「また来るよケロンパ!」等とほざいていたらしい。
 その後しばらくの間は、酒を見るのも聞くのも嫌になった〈お調子者〉がいたことは、皆様のご想像通りです。 チャンチャン