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(1)はじめに

 我々は、日常生活を営むに当たって、食料品、衣料品など多種多様な商品を購入しているほか、理容、クリーニングなど各種のサービスを利用している。また、企業間でも膨大な商品や、貨物輸送、広告・通信などの各種サービスが取引されている。これらの商品やサービスには、改めていうまでもないことだが、それぞれ価格(値段)がついている。このように、経済活動の中で取引されそいる商品やサービスの価格を沢山集めて、それらの平均値を求めたものを個々の商品やサービスの価格と区別して「物価」という。

 それでは、物価という概念は、何故必要になるのであろうか。これを、通貨価値、つまりおカネの値打ちとの関係で考えてみたい。通貨の価値は、それによってどの程度の商品やサービスを購入できるかによって決まってくる。お札(例えば一万円札)の価値について考えると、購入する商品やサービスの価格が上昇したために、それ以前に比べて少ない商品やサービスしか購入できなくなったとすれば、その分だけ一万円札の値打ちが下がったことになるわけである。この場合、購入する商品やサービスの価格が平均してどの程度上がったかを測る物差しが物価に他ならない。このように考えてくると、物価という概念は、おカネの値打ち、つまり通貨の購買力の変化を捉えていくうえで必要不可欠なものであることがわかる。

 商品やサービスの価格は、主に次の四つの要因によって変動するものと考えられている。需給要因、コスト要因、為替要因と海外要因、季節要因の四つの要因があげられる。ただし、同じ要因でもその時々の内外の景気の局面、金融情勢など、経済環境に応じて物価への影響度合いが異なる場合がある。つまり、こうした場合、値上がりする商品もあれば、その一方で値下がりする商品もあるのが一般的である。このように、多数の商品やサービスの価格がおのおの多様な要因によって変動し、結果として、それらの価格比が変化していくことを相対価格の変動という。

 商品やサービスの価格がさまざまに変動しても、それが相対価格の変動にとどまり、平均的な価格水準(以下で「一般物価水準」と称す)が変化しないのであれば、それ自体は、家計や企業などの各経済主体、ひいては経済全体に悪影響を及ぼさないと考えられている。すなわち、個々の商品・サービスの需要、供給の過不足は、時々刻々価格の上昇・下落というかたちで個々の商品・サービスの価格に反映されている。その一方で、供給サイドにおいては、そうした価格情報をいわばシグナルとして、ヒト・モノ・カネといった経済的資源を需給が逼迫している、ないしは、より儲けの大きい商品・サービスヘ振り向ける動きが起こり、結果として国民経済全体としてバランスのとれた生産と効率的な資源配分が達成されるわけである。

 しかしながら、相対価格の変化を伴いつつ、一般物価水準が持続的に上昇していくと、それは、金融資産の目減り、企業活動の抑制など、家計、企業など各経済主体に深刻な影響をもたらしている。こうした一般物価水準の持続的上昇をインフレーションという。これに対して、物価が下落ないし極めて安定している状態は、ディスインフレーションと呼ばれ、このように物価の安定基調が持続する場合には、経済成長が促進されることが知られている。なお、ディスインフレーションと似た言葉としてデフレーションという用語があるが、これは経済活動の極度の停滞と物価の急激な下落が同時に起こるケースを指している。

 さて次に、物価水準自体が問題とされるケースを考えてみたい。その端的な例が、これから取り上げる内外価格差の問題である。これは、各国の物価上昇率を比較するのではなく、ある時点における各国の平均的な物価水準ないし特定の商品・サービスの価格水準を比較するという問題の捉え方である。各国間の物価水準の比較はなかなか難しいといえるが、近年の国際化に伴うヒト・モノ・カネの交流が一段と深まっていることを勘案すれば、主要国間の物価水準の格差は縮小の方向にあると考えられるのが当然である。しかしながら、後で詳しくみるように、わが国の物価水準が他の主要国に比べ割高という側面を有しているとすれば、そのような価格差がいかなる要因によって生じているかを的確に把握していくことが、国民の経済的厚生を高めていくうえで極めて重要といえる。


序章
 学問とは自発的行為である
 学問とは自己満足の世界である
 学問的行為者の学問的行為
 学問は必ずしも社会の役に立たないのは当然
 私的空間と公的空間をつなぐ方法−論文−
 序章での引用文献・参考文献
第T章 何故、日本の物価は世界と比べて高いのか(経済学)
 (1)はじめに
 (2)為替レートの変化
 (3)内外価格差の現実
 (4)むすび
    第T章での引用文献・参考文献
第U章 何故、戦争は起こるのか(国際政治学)
 (1)はじめに
 (2)戦争の歴史
 (3)経済的要因からみる戦争の出現
 (4)生物学的要因からみる戦争の出現
 (5)何故、戦争は起きるのか
 (6)経済制裁で、北朝鮮を追いつめてはいけない
 (7)むすび
    第U章での引用文献・参考文献
第V章 何故、男は女を愛し、女は男を愛するのか(大脳生理学)
 (1)はじめに
 (2)男が女を愛し、女が男を愛する理由
 (3)男と女の関係を決める要素は何か
 (4)男と女のつりあった関係
 (5)むすび
    第V章での引用文献・参考文献
終章、あとがき

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