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終章、あとがき

終章

 本論文が、「学問的行為者による学問的行為」ではなく、「学問を通じて人格の形成をはかる」という、城西大学の建学の精神に基づいた作品であることをご理解いただけたならば幸いである。


あとがき

 どのような学問分野でも、専門化が高度に進むと総合的な視野が失われ、他分野とのつながりが見えなくなることがある。例えば、社会科学の分野でも、一時期は文化人類学が大きな期待を抱かせたが、それぞれの研究者が特定のフィールドワークを進める中で個別の地域に沈潜し、大きな視野を失いつつあるように見える。このような傾向はどの分野にも見られるものだが、その学問に対する期待が大きければ大きいほど失望もまた大きく、一体どうなっているのかと疑いたくなる。例えば、経済学に対する疑問もその一つである。たしかに、これは経済学だけの固有の問題ではないかもしれない。しかしながら、経済学に対する期待が大きいために、特に問題視されているのかもしれない。

 現在、日本の経済界は未曾有の混乱の中にある。金融業界だけでなく官界をも含めて根底的な改革が必要になっている。総会屋の介入を招くような事態は経済界だけの問題ではなく、日本社会全体の構造間題なのである。このような状況に対して政府は行財政改革によって対応しようとしている。しかし現在の行財政改革が財政赤字を絞っている限り、根底的な改革は出来ないであろう。今、日本に必要なのは財政赤字の削減よりは大義なのである。政治に大義がなく、経済にも大義はみられない。俗事にまみれた人間関係の中で右往左往しながら、ことが全体に及ぶことを避けようとして財政の問題に限定して切り抜けようとしているに過ぎない。政治に大義がないということは、日本の将来について希望も覚悟もないということである。クリントン米大統領は一般教書の中で、21世紀には国民のすべてが高等教育を受けられるようにするための財政措置を講ずると述べている。一方の日本では、財政上の観点から高等教育を切り捨てようという姿勢すらみられる。ここに米国と日本との政治姿勢における差がある。経済学に限らず諸学問がこのような事態に口をつぐんでいるのは、専門化が進んだためではない。学問が大義や義から身を遠ざけたためである。学問が誕生した頃は、どの学問も「いかに生きるべきか」という問いと無関係ではなかった。その限りですべての学問は教養そのものであった。

 しかし学問が制度と化し、国家が学問の在り方に口を出すようになってから、学問は国家によって助成され、国家と共存してきた。その過程で研究者個人の生き方は問われなくなり、専門分野に突入さえすればそれだけで評価されるようになってきたのである。しかし一国には義が必要であり、義がないところには混乱があるのみである。そして義とは最終的には一人の人間の生き方に基づくものであり、それが多くの賛同をえた場合、国民の義となるのではないだろうか

 最後になったが、2年間私のようなお調子者を文句一ついわず面倒を見ていただいたゼミの担当教官であられる森田昌幸先生には感謝したい。いろいろ無理なお願いをしたにもかかわらず、先生は嫌な顔ひとつせず引き受けてくださったり、「おおいにやりたまえ」と励ましていただいた。とてもありがたいことであった。

 そしてこれは私だけでなく、全てのゼミ生が感じていると思うが、先生には学生をひきつけてやまない素敵な魅力がある。おそらくそれは、先生が教師という領域に踏み止どまらず、一人の人間として、自分の生き方や視野の広さを常日頃から我々に伝えてくれているからであろう。もちろんそのようなことができるのは、優れた教師の証でもある。優れた教師とは、周りの学生たちに学ぶ気力を起こさせる教師であり、それがすべてである。

 ゼミで培った経験を活かして、よりよい人生を歩んでいきたいと思います。森田昌幸先生どうもありがとうございました。


「あとがき」引用文献・参考文献

・阿部謹也「【生き方】を問わない経済学」『日本経済新聞』
(日本経済新聞社,1997年)10月22日(31面)

・中央大学総合政策学部編『中学生にもわかる大学の学問』
(藝神出版社,1997年)

・守屋洋『大学・中庸』(PHS文庫,1995年)

・ドミニク・モイジ「人間の価値観、劇的に変化」『日本経済新聞』
(日本経済新聞社,1997年)9月18日(31面)


序章
 学問とは自発的行為である
 学問とは自己満足の世界である
 学問的行為者の学問的行為
 学問は必ずしも社会の役に立たないのは当然
 私的空間と公的空間をつなぐ方法−論文−
 序章での引用文献・参考文献
第T章 何故、日本の物価は世界と比べて高いのか(経済学)
 (1)はじめに
 (2)為替レートの変化
 (3)内外価格差の現実
 (4)むすび
    第T章での引用文献・参考文献
第U章 何故、戦争は起こるのか(国際政治学)
 (1)はじめに
 (2)戦争の歴史
 (3)経済的要因からみる戦争の出現
 (4)生物学的要因からみる戦争の出現
 (5)何故、戦争は起きるのか
 (6)経済制裁で、北朝鮮を追いつめてはいけない
 (7)むすび
    第U章での引用文献・参考文献
第V章 何故、男は女を愛し、女は男を愛するのか(大脳生理学)
 (1)はじめに
 (2)男が女を愛し、女が男を愛する理由
 (3)男と女の関係を決める要素は何か
 (4)男と女のつりあった関係
 (5)むすび
    第V章での引用文献・参考文献
終章、あとがき

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