森田ゼミ96年トップ

(6)経済制裁で北朝鮮を追い詰めてはいけない

 さて以上の観点から、生意気かもしれないが北朝鮮問題に触れてみることにする。

 朝鮮民主主義人民共和国(以下で「北朝鮮」と称す)は、昔ながらの戦争の動機というものを持っている国である。国際的に孤立しているだけでなく、経済的にも行き詰まり、食糧不足も伝えられている。状況的には、経済支配領域を広げたいところである。それに対して、アメリカ、日本、韓国などの方には、自ら戦争をする動機がない。

 つまり、自分たちの生存を確保するためという戦争の動機となる事情があるのは、北朝鮮側なのである。しかし、その北朝鮮にしても、いくら戦争の動機はあっても武力ではアメリカをはじめとする各国のそれにはかなわないということを知っているはずだから、自ら戦争を仕掛けるなどという自殺行為は、常識的に考えればするはずがない。金日成が死去して抑えがきかなくなり暴発する恐れがないかといわれたりしているが、万一内部権力闘争が起こったとしても、それは内部体制変更のための武力行使の範囲にとどまり、挙国一致して戦争に及ぶ方向に進むことは考えにくい。仮に北朝鮮が、自ら先制攻撃を仕掛けることが自殺行為だとわかったうえでなお、そういう選択をすることがあるとすれば、それは食糧不足などに対する国民の不満が高まって、その国民の不満をそらすためには、戦争に打って出る以外にないというところまで、政権が追い詰められた時であろう。したがって、北朝鮮に先制攻撃を仕掛けさせないためにもっとも重要なことは、北朝鮮をこれ以上追い詰めないことである。その意味では、経済制裁はますます北朝鮮を追い詰める以外のなにものでもない。この問題を解決するためになされるべきは、経済制裁よりもむしろ、経済援助なのである。経済援助によって北朝鮮国内の経済的状況がいい方向に向かえば、国民の不満も緩和されるから、北朝鮮当局が自ら戦争を仕掛ける必要はなくなる。次にするべきことは、北朝鮮の国民に世界の情報を伝えることである。北朝鮮が自ら戦争を仕掛ける可能性があるとしたら、前述したように、それは国民の不満をそらしてごまかすためだから、国民が当局によってごまかされないように、世界のどの国も北朝鮮を攻撃する意思は持っていないし、むしろ世界は平和を望んでいるということを、彼らに知らせるのである。

 例えば、ソ連・東欧が崩壊した要因の一つに、東側の国民がテレビやラジオなどによって西側の状況を知っていたことがあげられる。西側の方が自由で豊かだということを知っていたからこそ、当局が体制を守るべくいくらウソをいっても、国民はだまされることなく自由化、民主化を求めたので、ソ連・東欧の共産主義体制は崩壊したのである。北朝鮮の場合、ソ連・東欧と違って、当局が電波管理をしているといわれるので、北朝鮮の国民に世界の情報を伝えるのは容易なことではないと考えられるが、さまざまな機会を通じて知らせる努力をする必要がある。外部からの情報によって、世界は平和を望んでいること、韓国は非常に豊かであることを北朝鮮の国民が知れば、当局が戦争によって国民の不満をそらそうとしても、国民がそれに踊らされることはなくなるはずである。そういう観点からすれば、在日の北朝鮮の方々に北朝鮮をどんどん訪問してもらうことは大切である。

 肝心なことは、北朝鮮当局に戦争を始めるための口実を与えないことである。経済制裁は、北朝鮮当局にとって格好の口実になりかねない。国内の経済的行き詰まりの原因を、「各国の不当な経済制裁のせいだ」といって、責任転嫁できるからである。ましてや海上封鎖などをすれば、国民の憤激をあおり立て暴挙に走らせる教唆行為となるであろう。

 全くの仮定として、北朝鮮が核を持っていたとしても、それはないに等しいくらいに考えてよいであろう。というのは、たとえ戦争状態になったとしても、核兵器はあとのことを考えればまず使うことはできない。

 第二次世界大戦以降に起きた湾岸戦争にしろ、ほかの戦争にしろ、核保有国が参戦していても、核兵器を使用していないのがその証拠である。核兵器は、これを持っていることによる威嚇力によって相手の攻撃を抑止すること、その他の効果を生じるところに実際的な意味があるが、北朝鮮はその意味でも核兵器を使えない。何故なら、核兵器の保有を否定しており、又国際的関係を保つためには否定せざるを得ないからである。

 一般的に、政治の世界では、強硬派の方が人気が得られるという傾向があるが、話し合い路線を続けてほしいものである。マントをぬがすには、北風を送るよりは暖かい日光を送るほうが有効なのである。日本でも、有事体制ができていないことを危惧する人たちを中心に、北朝鮮が攻めてくることを前提にした議論が行われたりしているが、中国のようにもっと大人の対応をするべきである。つまり、北朝鮮の権力者たちの動向ばかりにとらわれないで、北朝鮮の市民レベルで対応策を考えるべきである。そういう対応をしていれば、北朝鮮の政治は、ルーマニア型か東ドイツ型かソ連型か中国型かはわからないが、必ず北朝鮮市民をより自由にする方向に変わっていくだろう。


序章
 学問とは自発的行為である
 学問とは自己満足の世界である
 学問的行為者の学問的行為
 学問は必ずしも社会の役に立たないのは当然
 私的空間と公的空間をつなぐ方法−論文−
 序章での引用文献・参考文献
第T章 何故、日本の物価は世界と比べて高いのか(経済学)
 (1)はじめに
 (2)為替レートの変化
 (3)内外価格差の現実
 (4)むすび
    第T章での引用文献・参考文献
第U章 何故、戦争は起こるのか(国際政治学)
 (1)はじめに
 (2)戦争の歴史
 (3)経済的要因からみる戦争の出現
 (4)生物学的要因からみる戦争の出現
 (5)何故、戦争は起きるのか
 (6)経済制裁で、北朝鮮を追いつめてはいけない
 (7)むすび
    第U章での引用文献・参考文献
第V章 何故、男は女を愛し、女は男を愛するのか(大脳生理学)
 (1)はじめに
 (2)男が女を愛し、女が男を愛する理由
 (3)男と女の関係を決める要素は何か
 (4)男と女のつりあった関係
 (5)むすび
    第V章での引用文献・参考文献
終章、あとがき

「学問 自己満足の世界」に戻る